2015年9月9日水曜日

「20歳(ハタチ)のころ(24)」

スペインの首都、マドリッドへ向かう列車は、順調に砂漠の中を走っていました。南欧の強い日差しが窓から差し込んできました。ウトウトとしていると、また突然、列車が止まってしまい目が覚めました。窓の外を覗くと、そこは駅でもなく、砂漠の途中の何もないようなところでした。また速く走りすぎて故障でもしたのかと思い、前方を見ると、運転手が昼食をとっていました。驚いたことに乗客は誰一人それについて苦情を言っていません。みんな運転手の食事が終わるのをボンヤリ待っているようでした。なんとも長閑(のどか)な光景でした。

マドリッドに到着しました。パリからの長い長い列車の旅でした。空気は乾いていて、街の雰囲気もフランスとは違っていました。街全体が、開放感に溢れていて、明るく、時間の流れが緩やかで、のんびりしているようでした。しかし治安はあまりよくないようでした。驚いたことに、街のあちこちに公衆電話ボックスがありましたが、その中には肝心の電話機がありませんでした。どうもすべて盗難にあったようで、電話機もろとも外されていました。

スペインといえば闘牛ということで、赤居さんと一緒に闘牛場へ行きました。そこは小さな野球場といった場所でした。派手な衣装を身にまとった闘牛士が現れ、次々と暴れ狂う牛たちの眉間にすれ違いざまに剣を刺していきました。まさにテレビで観たことのある光景です。観客たちの興奮も最高潮に達しました。これこそスペインに来た甲斐があったものです。闘牛ショーを満喫しました。闘牛場の裏手では、牛たちを解体していました。コンクリートの床に真っ赤な血が流れていたのが、今でも鮮明に思い出されます。

マドリッドを訪ねた理由の一つは、以前、ブライトンで同居人だったサルバに再会するためでした。短い期間でしたが、慣れないイギリスでの留学生活を共にした友人でした。ヨーロッパ旅行に出発する前に、あらかじめ手紙で訪ねる予定を伝えていました。再会できる喜びを綴りました。彼の奥さんと会えるのも楽しみの一つでした。サルバも、再会を楽しみにしているとの返信をくれました。現在のようにメールで簡単にやり取りできる時代ではありませんでしたので、手紙の一字一字に心がこもっているようで、愛(いと)おしく感じられました。

サルバとの再会は感動でした。うっすらと涙が出ました。固い握手をして、抱き合いました。日本人以外では始めての友人でしたので、感動はまたひとしおでした。彼はまったく変わっていませんでした。かつてのように立派な黒髭をたくわえていました。その横には奥さんも一緒でした。とても美人でした。陽気な人で、少々寡黙(かもく)なサルバにはよく似合っていました。二人には、マドリッドでも有名なレストランで食事をご馳走になり、王宮にも連れて行ってくれました。彼との友情がまた一段と深まりました。はるばるマドリッドを訪ねて本当に良かった。

(つづく)

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