2017年6月14日水曜日

「20歳(ハタチ)のころ(33)」


バチカン市国のシスティナ礼拝堂は訪ねてみる価値がありました。歴史的、文化的、思想的、さらには芸術的な要素をすべて内包した建造物であり、キリスト教の信者ではなくとも、その偉大さには圧倒されます。まさにイエスが後世に残した影響力は計り知れないものがあります。

ローマでは、赤居さんと街中を一日あてどもなく歩きまわりました。ただひたすら歩き、人や建物などを観察することによって、この世界的観光地を肌で感じることができました。いまでも歴史小説を愛読していますが、やはりその作品の地へ実際に足を運ぶというのは、その場の空気を実感することができ、小説の情景を想像するのに役にたちます。

さて、おなかも空いたので、本場のパスタを食べようということになり、場末のレストランで夕食をとりました。なにぶん貧乏旅行のふたりですから、贅沢はできませんでしたが、遅くまでワインを飲んだりして、活気にあふれるローマの夜を満喫しました。おそらくシコタマ飲んだのではないでしょうか、その夜はどんなホテルに宿泊したのか、一向に思い出せません。

翌日、ローマをあとにしたふたりは、さらに南のナポリへ向かうのを諦め、イタリア半島右側のつけ根にあたるヴェニスへと列車に乗り込みました。それからの記憶は、何故かすっぽりと抜けています。まるでローマからヴェニスへと一瞬にワープしたような感覚です。映画のフラッシュバックのように鮮やかな記憶として残っているのは、ヴェニスの駅を一歩出て目にした大運河です。その光景には驚きましたね。

駅頭のさきには、キラキラと輝く水面がひろがり、黒いゴンドラが行きかっていました。赤居さんとふたりでその場に立ちすくみ、目前に拡がる運河をしばらく眺めていました。まさにそこは、『水の都、ヴェニス』です。

(つづく)


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