わたしたちはつぎの目的地、アッシジ(Assisi)へと向かいました。アッシジも赤居さんがどうしても訪ねてみたい観光地のひとつだったようです。いつものように道中、赤居さんの後ろをついてゆくしかありません。
コモからアッシジまでは、イタリア半島をかなり南下します。しかしその途中の記憶がまったくありませんので、おそらく前日のジュリアーナ宅での歓迎パーティで飲みすぎたせいか、ずっと眠っていたのかもしれません。
やっと列車を降りて駅舎のそとへ一歩出ると、ほそ長い道路がまっ直ぐに田園を貫いてのびていました。その前方の小高い丘の上にアッツシジの古い街並みが遠望できました。まるで蜃気楼をみているようでした。
まっ青な空にまっ白な雲がいくつかぽっかりと浮いていました。あたりは静寂に包まれていて、空気は乾燥していました。一瞬、耳が聞こえなくなったような錯覚を覚えました。あたりには一面オリーブの木が植えられていました。
アッツシジの街は、中世そのままの趣きを残しており、白っぽい石造りの街並みは陽光をいっぱいに浴びていました。すり減った石畳の路地をぬけると、荘厳な教会がありました。
その教会は聖フランチェスコ聖堂といって、13世紀に建てられた由緒ある歴史的建造物です。中に入ってみると、ひんやりとして、外とは違ってピンと張り詰めた厳かな空気に包まれました。壁面は、数々の中世美術のフレスコ画で飾られていました。
高い天井や美しいステンドグラスを仰ぎみながらさらに奥へと進むと、祭壇中央の上部に十字架のキリスト像(聖母マリア像だったかもしれません)が見えました。キリスト教徒でなくとも、厳粛な気持ちになりました。
赤居さんとしばらくアッツシジの街路を散策しました。その通りには、カリフォルニアにある都市の名前の由来となったらしい、サンフランチェスコ通りやロスアンジェロス通りなどがありました。薄いピンク色の大理石をつかった優美な修道院もありました。
歩き疲れて、通りに面した小さなカフェに入りました。石畳通りに面したパティオの椅子に座り、コーヒーを注文しました。初めて飲んだ本場のエスプレッソは、とても苦味があって閉口しました。店のおじさんも日本人がよほど珍しいのか、しきりに話しかけてきましたが、そのイタリア訛りのきつい英語にも閉口しました。
(つづく)