2011年5月30日月曜日

書評 ー 吉村昭「冷い夏、熱い夏」


珠玉の作品

いままで数多くの吉村昭作品を読んできましたが、私にとってこの小説は、その中でも珠玉の作品といえます。ひたすら死へと向かう弟を見つめながら、深い兄弟愛と、あくまでもガン告知をしないという葛藤と苦悩とが、硬質な文体によって淡々と語られています。作品全体を流れる静謐な空気と低音な旋律が、死というテーマを一層際立たせています。文学に対する吉村昭という小説家の恐ろしいまでの執念を感じました。

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