2015年3月4日水曜日
「20歳(ハタチ)のころ(10)」
関戸さんの『南京玉すだれ』は、各国の留学生たちの話題の的(まと)となりました。面白い日本人がいるとのウワサが広まり、ワインバー、『シェイズ』は、金曜日の夜になると、留学生たちで溢れ返りました。次第に客たちの酔いがまわり、場が盛り上がり出すと、関戸さんのパフォーマンスを促す声が上がりました。「ケイジ! ケイジ!」、と関戸さんの名前を連呼します。関戸さんは、まるで、『シェイズ』お抱えの専属芸人のようでした。
みんなの熱望に応えるように、関戸さんは片手を高々と上げると、部屋の中央へと進み出ます。「待ってました!」とばかり、歓声が沸き起こりました。今か今かと奇妙な日本の『Dance & Song』を待っていた聴衆の興奮は最高潮へ達します。関戸さんは、みんなの視線を集めるように一息つくと、やおら軽妙なステップと手拍子を始めました。
♪ア、さって、ア、さって、さては南京玉すだれ♪
関戸さんは、いつものように声を張り上げて唄いました。その歌声は地下の狭い小部屋に響き渡ります。留学生たちも、もうすっかり慣れたこのリズムに合わせるように、テーブルを叩き、両足を踏み鳴らし始めます。店のマスターも、「また始まった・・・」、といったように諦(あきら)めたような仏頂面をしています。そんなことには一向にお構いなく、関戸さんのパフォーマンスは続きます。
そんな中、赤居さん同様、同じ日本人として、関戸さん一人に任せるわけもいかないという気持ちを抱き始めました。そのうちに、したたかに酔った勢いにまかせ、ふたりは関戸さんと一緒に唄い踊り始めました。もうすでに恥ずかしいという気持ちは消え失せていました。新たなバック・ダンサーの登場に、留学生たちのヤンヤヤンヤの喝采が巻き起こりました。「ブラボー! ブラボー!」の叫び声が、店内に響き渡りました。その喧騒の中で、ひたすら3人は我を忘れて唄い踊りました。陶酔の域に達していました。一緒に踊りだす留学生たちもいました。
いま振り返ると、なんとハチャメチャな遊びをしていたのかと、呆れて苦笑してしまいます。関戸さんによると、『南京玉すだれ』は、学生時代、ラグビー部の宴会の余興で披露していた出し物(?)の一つだったそうです。こんなにウケるとは思わなかった、と笑っていました。全身全霊を込めて、集中して演じる(?)ことがウケるコツだ、と胸を張っていました。ラグビー部の飲み会のあとなど店を出ると、「国歌斉唱!」と叫んで、一列に立ち並ぶ後輩が歌う『君が代』に合わせて、歩道の脇にある電信柱によじ登り、おまわりさんによく怒られた、と屈託もなく笑っていました。
(つづく)
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