まさに「イブシ銀」の巧さです。藤沢周平作品の中の「蝉しぐれ」にも引けを取らない非常に味わいのある見事な作品です。老いを感じ始めた人には、じんわりと心に染み入ってくる小説です。これぞ「藤沢周平!」といえる出来ではないでしょうか。
家禄百二十石の御小納戸役から年を重ねるごとに累進し、最後は藩主の用人を勤め、ひっそりと息子夫婦の離れに住み、隠居の身となった清左衛門。一切の雑事から解放されたと思ったら、生涯の盛りを過ぎた強い寂寥感を抱くようになります。
しかしそんな彼も、藩の家老たちの権力争いや様々な事件に巻き込まれていきます。美しい北国の季節の移り変わりの中、清々しい清左衛門の生きかたが、古い友人、料理茶屋の女将、昔の同僚などと交わりを通して鮮やかに描かれています。できたら自分も清左衛門のような余生をおくりたいと思わせてくれます。
随所に現代の定年後のサラリーマンにも通じるような話があり、10年後にもう一度読みたいと思える作品です。平成5年にNHK「金曜時代劇」で放送されたようなので、再放送があればぜひ見てみたいものです。清左衛門を仲代達矢が演じているようです。
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