2012年8月20日月曜日

『虹の翼』を読んで


「鳥のように自由に空を飛びたい」という子供の頃の夢を追いかけ、アメリカのライト兄弟が世界初飛行を達成する10数年も前に、独自の構想と絶え間ない長年の研究、試作、そして実験を繰り返し、「飛行器」を考案発明した男の話です。日本にもこんな人がいたなんて知りませんでした。

明治12年、愛媛県佐多岬の付け根に位置する八幡浜浦に生まれた二宮忠八は、子供の頃、自ら創意工夫した凧を作成し販売するほどでした。その後、陸軍に入隊し、演習の途中ふっと目にした、羽ばたきもせず滑空する烏の何気ない様子に衝撃を受けます。それからは貧しい家庭生活の中、「飛行器」作りに熱中していきます。

軍隊生活では度々上官へ「飛行器」の重要性を訴えますが、人間が空を飛ぶとは考えもしない時代ですので、ことごとく無視されます。それにもめげずひたすら努力する姿は感動的です。退役後は製薬会社に勤務し、その勤勉さにより役員まで登りつめ、金銭的余裕が出来て再び「飛行器」の作成にとりかかりますが、完成のその前に世界では飛行機が作られ始めます。

日清・日露戦争や、明治という社会情勢を横糸にし、吉村昭の緻密な文章で描かれた一人の男の一生は、読み応え十分でした。久しぶりに吉村昭を読みましたが、やはり大好きな作家のひとりですね。

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