2012年8月23日木曜日

『火天の城』を読んで


稀代の天才信長を、安土城築城という全く新しい視点で描いた秀作です。

これまで信長関連の様々な作品を読んできましたが、新鮮な印象をうけました。織田信長かれ自身を描くよりも、「天下布武」へと突き進む権力の象徴としての壮大な安土城へ光をあてた点において斬新でした。それによってまた違った角度から信長の人物像を垣間見ることができ、かれの稀有な才能と独創力が浮かびあがってきます。このような信長の描き方もあるんだなぁ、と感心しました。

話の筋は、熱田神宮の一介の宮大工が信長の命令と奇想天外な要求によって空前絶後の豪壮な五重の天守閣をいただく巨大な城を築城します。完成までには、同じ番匠(大工)の息子との確執や、建設を妨害する忍びとの戦いなども描かれています。しかし本能寺の変後、苦難の末に建てた安土城は無残にも炎に包まれてしまいます。これまでの苦労はすべて水泡と帰し、言い知れぬ無常観が漂います。

小説を読んだあと、主人公の棟梁岡部又右衛を西田敏行が好演したDVDも見ました。よくできた作品でしたが、残念なのは、終わり近くで天守閣全構造のバランスをとるため仲間たちと親柱の下部を切るシーンがありましたが、少々胡散臭い演出が否めませんでした。それに父親の仕事振りを見ながら成長してゆく息子の代わりにひとり娘という設定で、彼女と若い大工との恋愛ドラマになっていたのはイマイチでした。ネットによると、映画出演者の一人が2008年10月1日に発生した大阪個室ビデオ店放火事件に巻き込まれて死亡したそうです。不思議です。

山本兼一の作品は今回始めて読みました。読み応え十分でした。文章に味わいがあり、構成力もしっかりしています。読み進むうちに当時の匠たちの技に支えられ眼前に巨大な安土城が築かれていく様子が見えるようで、最後のページを閉じるまで飽きることなく読ませてくれました。この作品によって、ほぼ無名の作家だったかれが松本清張賞を受賞したのも納得できます。かれの他の作品も今後読んでみようと思います。

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