2014年5月18日日曜日

「結婚生活でいちばん大切なものは忍耐である」(チェーホフ)


昨日、朝いつものようにマッサージチェアーに座って新聞を読んでいると、部屋の奥から妻が声をかけた。


「あのサァ、今日って何の日?」


――その声の調子には何やら妙に不吉な響きがあった。
これまでの数々の苦い経験によって、このような何気ない質問には、女特有の「毒」が巧妙に仕込まれていることを知っている。

新聞には【安倍政権、集団的自衛権の行使容認へ】の記事がおどっている。

(なにを突然そんなことを訊くのか‥‥‥)

コーヒーをひとくち飲んだ。微妙な沈黙が流れた。


「‥‥えっ、今日?」


不意に敵の威嚇攻撃を受け、まだ寝ぼけてボンヤリした頭をフル回転させ、事態の収拾把握に努める。

何も思いつかず苦しまぎれに応えた。


「今日は不燃ごみの収集日でもないし、町内の一斉清掃でもないよね‥‥」


それには何も応えず、敵は沈黙を守っている。こちらの出方をじっと待っている気配が感じられた。

(不気味だ‥‥‥)

結婚生活で培った長年のカンにより、発射された一発の質問には何やら策謀が含まれているように察しられる。

(ちょっと待てよ、今日は何の日だっけ‥‥‥)

敵の不意打ちともいえる先制攻撃に対し、【個別的自衛権】で対応するか思案し、身構えた。


「あのサァ、今日は5月17日でしょう?」


敵は2発目を撃ってきた。こちらに迎撃するスキを与えない。
いまさら【憲法解釈】ウンネンなどで手間取っているヒマはない。

しかし、ひたすら平静を装う。
また新聞を手にとった。

すると、いきなり敵はこちらの動揺を察知したのか、間髪を入れず、ピンポイントに強力なミサイルを撃ち込んだ。


「あのサァ、今日は結婚記念日じゃないの!」


反撃できない。
ただただ笑うしかなかった。


――『実に敵という敵の中で山の神ほど恐ろしい敵はない』(森鷗外)


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