ブライトン(Brighton)でのホームステイ先は、当初、語学学校が推薦してくれた家族のお宅でした。クイーンズ・パーク通り(Queen's Park Road)にありました。その名前が示すように、通りから一歩中に入った裏手には、広く美しい緑地が拡がっていました。イギリスの公園は、どこもよく手入れされた花壇や芝地があります。まさにイングリッシュ・ガーデン(English Garden)です。散策するのには気持ちの良い場所です。
ホームステイ先での同居人は、スペイン人の同じ留学生でした。スペインの首都、マドリッド(Madrid)出身でした。小柄ですがガッチリとした体型をしていて、黒く濃い髭をたくわえていました。サルバドール・ロペス(Salvador Lopez)という名前です。30代前半の銀行員でした。いつもは短く『サルバ』と呼んでいました。仕事の関係で英語が必要になり、短期での語学留学だ、と言っていました。すぐに彼とは気が合って、友達になりました。夕方になると、よく近所のパブ(Pub)へビールを飲みに行きました。
パブは街のあちこちにあって、気楽にビールを飲んだり、軽食をとることができます。どこのパブも歴史を感じさせる店構えと落ち着いた内装です。ビールはパイント(Pint)で注文します。1パイントは568mlで、ビール専用のパイント・グラス(Pint Glass)になみなみと注がれて出てきます。ルート・ビール(Root Beer)と呼ばれている黒ビールもよく飲みました。たまには気取って、ドライ・マティーニ(Dry Martini)を注文したりしました。この頃になると、お酒が美味しい、と思うようになりました。
サルバは、このホームステイ先が気に入っていないようでした。朝食にシリアルと牛乳を出してくれましたが、どうも牛乳は水で薄めてあるし、シャワーを使う時間を制限したりする、と不満を洩らしていました。ランドレディ(Landlady) は、高校生の息子がいるシングル・マザーでした。生活は苦しそうでした。日常生活において、家族との会話も一切ありませんでした。そんなある日、サルバが突然、一緒に他のホームステイ先を探さないか、と言い出しました。英会話上達の為にも、自由に会話ができる家庭を希望をしている、とのことでした。したがって、この最初のホームステイ先には数ヶ月も滞在しませんでした。
次に移った先は、ディッチリングズ通り(Ditchlings Road)にありました。イギリス特有の棟続きのタウンハウスで、なだらかな坂の途中にありました。裏庭には、綺麗に手入れされた鮮やかなバラが幾つも咲いていました。ウェルズ(Wells) さんという老夫婦のお宅でした。食事中は色んな話をしたり、ご主人が所有しているボートで近くの川を遡ったりしました。どこまでも拡がる草原地帯の中をゆっくりと流れる川を遡り、途中、岸辺でピクニックをしたりしました。もう30数年も昔のことですから、ウェルズさん夫婦もとうに亡くなっているでしょうね。大変お世話になりました。
(つづく)
0 件のコメント:
コメントを投稿