物の本によると、江戸時代、格段に商品の流通が活発になり、街道を馬で運搬するよりも、盛んに船を使って物資を運ぶようになったそうです。大きな一枚の帆を張った千石船と呼ばれる木造船で、米や酒などを大消費地江戸へ運んでいたそうです。
しかし、不幸にも途中暴風雨などに会って、太平洋岸を絶えず流れている黒潮につかまり、大海へと漂流した船乗りたちがいたようです。井上靖の小説『おろしや国酔夢譚』などで知られる大黒屋光太夫もその一人です。
それら漂流民のなかで、幸運にもアメリカの捕鯨船などに保護され、遠くアメリカ大陸まで連れていかれた者たちもいたようです。またある者は、その後帰国することができ、異国での貴重な体験を口述しています。
当時の日本は鎖国状態であり、キリシタン禁制でしたので、彼らはまず奉行所で調べられています。その時の記録が今でもたくさん残っているそうです。その筆記録の中に、英語の会話集というものがあり、漂流民たちが現地で覚えた単語が書かれてあるそうです。
たとえば「水」は、「ワーター」とか「ワラ」と書いてあるそうです。ちなみに「グモー」は「グッドモーニング」で、対訳は「おはようござりまする」と日本語で書いてあるそうです。面白いですね。「サンキュー」は、「かたじけのうござりまする」とか、食事の時などに耳にしたのでしょう、「ちょうだいつかまつりまする」と書いてあるそうです。とくに面白いと思ったのは、パンの「ブレッド」は、「ブレ」と書いてあり、訳は「麦餅」としています。「ハム」は「獣肉の蒲鉾仕立て」(笑)。
吉村昭の本にのっていたのですが、漂流民たちが最も驚いたことに、「キス」があるそうです。当時の日本人にとって、キスをする風俗はなかったので、初めて男女がキスをする姿を見たときは、さぞかし驚いたことでしょうね。
先ほどの会話集のなかにも「キス」についてのことが書いてあり、「互いに口をなめあうことなり」と書いてあるそうです。思わず笑ってしまいます。または、「互いに唇を強く吸い合いて、チューというなり」とも書いてあるそうです。そして非常に面白いのは、その説明文の下には必ず、「甚だ汚らわしき風俗なり」などと書いてあるようです。
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