2011年6月12日日曜日

書評 ー 辻邦生「安土往還記」


これは歴史小説だろうか。いままで読んだ信長関連の小説の中でも、異彩を放っている。

恥ずかしながら、この小説を読むまで辻邦生という小説家を知らなかった。いま読み終わってみると、彼のゆたかな想像力と確かな文学的センスに裏打ちされた文体には、最後のページを閉じるまで堪能し、引きこまれた。

読み応えのある作品であると思う。ふわふわなシフォンケーキではなく、リッチで味に深みのあるチーズケーキを食べたような味わいがある。

宣教師とともに戦乱の世に来日した外国の船員の目を通して、「事が成る」ために孤高の中で命を燃やす“尾張の大殿(シニヨーレ)”織田信長の心が鮮やかに描かれてある。

力作である。

0 件のコメント:

Readers